「サイボーグ士官ジェニー・ケイシー」シリーズ『女戦士の帰還』『軌道上の戦い』『黎明の使徒』
ハヤカワ文庫、エリザベス・ベア著、月岡小穂訳、を読んだ。まず、「サイボーグ士官ジェニー・ケイシーシリーズ」というシリーズ名は意図的なミスリードだと思う。普通こういったシリーズ名だと、いにしえのフォンブロワーシリーズのように少年(この場合は少女か)が成長していく物語だと思うことだろう。だが、主人公は50歳前後(49歳から51歳くらいまで)の準士官だ。大体、士官じゃねー。準士官だ。1巻の『女戦士の帰還』は、純粋にハードボイルド。視点が変わるが、そういったことが問題にならない力量を持つ。
たた、話には新味はない。うまくさまざまなSFのギミックを組み合わせたという感じで、新しい発想とかはほとんど感じない。コミュニケーションがなかなかとれない異星人? にしても、オリジナリティは逆にあまり感じない。ストーリーテーラーとしては非常に巧みだし、ポストフェミニズムっていうか、ある意味ではとてもフェミニズムっぽいところもあるけれど、それさえも個人的には気に入った。
敵との和解の仕方も興味深い。で、人が死ぬ。死ぬ。意味のある死もあるし、無意味な死もある。また、最終巻の本当に最後の方を除いて、ほとんど地球か地球周回上が舞台だ。シリーズ名から予感させるような派手な艦隊戦とかは皆無。また、主人公も簡単に命令に従うようなたまじゃねー。だが、そこがいい。個人と軍隊、さまざまなモラルとノンモラル。それらが、現実と密接にからみつつ、個人の問題としても描かれている。
ギミックがありふれたSF過ぎるので、懐かしささえ覚える、王道ストーリーだ。私はハインラインとか、平井和正の初期のサイボーグ物(これもオリジナルは別にあるわけだが)を思い出しながら読んでいた。ちょっとトラディショナル過ぎる気もするけれどね。今までに今年読んだSFでは一番のできだった。
6.5
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SCARDOWN―軌道上の戦い― [サイボーグ士官ジェニー・ケイシー2] (ハヤカワ文庫SF)
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